法人化したばかりの一人社長にとって、「役員報酬をいくらにすべきか」は、本当に悩ましい問題ですよね。
報酬を高くすれば手取りは増えますが、社会保険料の負担も一気に増えてしまいます。
かといって、報酬を低くしすぎると、会社に利益が残りすぎて法人税が高くなることも。
実は、会社と個人が国や自治体、社会保険に支払う「総負担額」は、役員報酬の決め方によって変わります。
結論からお伝えすると、この記事の試算では、会社の利益が500万円・1,000万円・2,000万円の各ケースで比べた役員報酬2案のうち、低いほうの案が総負担は少なくなりました。 ただし、比べたのは各ケース2案だけで、ほかの報酬額のほうが有利になる場合もあります。
利益がさらに大きい場合は、社会保険料の上限も踏まえて検討が必要です。
この記事では、一人社長や小規模法人経営者の方に向けて、会社の利益500万円・1,000万円・2,000万円の3つのケースで役員報酬2案ずつの総負担を比べ、利益がさらに大きい場合に関わる社会保険料の上限もあわせて解説します。
【ご注意ください】 本記事は「法人成り後の役員報酬」に関する内容です。
個人事業主・フリーランスの方は、国民健康保険・国民年金と所得税の最適化が主な論点となりますので、まずはそちらからご検討くださいね。
この記事でわかること - なぜ会社と個人の「総負担額」で比べることが重要なのか - 会社の利益別(500万・1,000万・2,000万円)に役員報酬2案の総負担を比べた試算例 - 役員報酬を今すぐ無料でシミュレーションできるツール
なぜ「社会保険料」と「手取り」のバランスが重要なのか?
役員報酬を決めるとき、つい自分の「手取り額」だけを見てしまいがちですよね。
でも、本当に大切なのは、「会社」と「個人」が国や自治体、社会保険に支払うお金の総額で比べることです。
ここでいう「手取り」とは、役員報酬から社会保険料(本人負担分)、所得税、住民税を差し引いた、実際にあなたが自由に使えるお金のことですよ。
役員報酬を決めると、主に3つのお金が動きます。
- 社会保険料: 本記事の協会けんぽ加入例では、健康保険・介護保険・厚生年金・子ども・子育て支援金は会社と個人で半分ずつ負担します。別途、子ども・子育て拠出金は会社のみが負担します。保険料は標準報酬月額等に応じて計算され、制度ごとに上限があります。
- 所得税・住民税: 個人の報酬にかかる税金です。報酬が高いほど増えます。
- 法人税: 会社の課税所得にかかる税金です。役員報酬は、定期同額給与などの損金算入要件を満たす範囲で会社の損金になり、課税所得を減らします。不相当に高額な部分などは損金に算入できません。
つまり、個人の手取りを増やそうと報酬を上げると社会保険料が増え、逆に報酬を下げて会社の利益を残すと法人税が増えるという、シーソーのような関係になっています。
どちらの負担が大きくなるかは、会社の利益や報酬額によって変わります。
【会社の利益別】社会保険料と総負担の比較シミュレーション
それでは、会社の利益別に比較の例を見ていきましょう。 ここでは、会社の利益500万円・1,000万円・2,000万円の3つのケースで、役員報酬2案ずつの総負担を比べます。
※前提条件:大阪府、40歳以上65歳未満、扶養家族なし。
利益は役員報酬・会社負担社会保険料を引く前の額です。
大阪の健康保険10.13%、介護1.62%、支援金0.23%、厚生年金18.3%を労使折半、別途会社のみ拠出金0.36%を適用します。
年額は2026年4月以降の保険料率を12倍した比較用の年換算で、実際の2026年1〜12月の納付額とは異なります。
所得税は2026年分の年税額(復興特別所得税込み)、住民税は同じ所得に対応する2027年度分を概算。
給与所得控除と所得に応じた基礎控除104万・67万・62万円を適用し、住民税の基礎控除は43万円、調整控除は省略しています。
2026年の所得税改正は原則12月1日施行で、11月までの月次源泉徴収は従前の扱いです。
法人地方税率は下記の標準税率を比較用に仮定し、大阪府・市の個別の超過課税や減免は含みません。
法人税等は資本金1,000万円以下・従業者50人以下の普通法人を想定。
法人税は所得800万円以下15%・超過分23.2%、地方法人税は法人税額の10.3%、法人住民税法人税割は7%、均等割は年7万円、事業税は所得400万円以下3.5%・800万円以下部分5.3%・超過部分7%、特別法人事業税は事業税額の37%として計算しています。
前年事業税等の損金算入・税額控除・申告端数の細部は省略。
防衛特別法人税は本例の基準法人税額が年500万円以下のため生じません。
計算根拠
正確な個別額は「役員報酬決め方ナビ」の適用年分を確認したうえで、税理士にご相談ください。
会社の利益500万円のケース
フリーランスから法人化したばかりの、売上800万円、経費を引いた会社の利益が500万円の一人社長を想定してみましょう。
| 役員報酬(月額) | 社会保険料(会社+個人) | 所得税・住民税 | 法人税等 | 総負担額(会社+個人) |
|---|---|---|---|---|
| 360万円(月30万円) | 約110.3万円 | 約19.5万円 | 約25.9万円 | 約155.7万円 |
| 480万円(月40万円) | 約150.7万円 | 約31.0万円 | 約7.0万円 | 約188.8万円 |
このシミュレーションでは、役員報酬を月30万円に抑えた方が、年間の総負担が約33.1万円も少なくなります。
月40万円案は、役員報酬480万円に会社負担社会保険料約76.3万円と均等割7万円を加えると、計算上は費用と税が利益500万円を約63.3万円上回ります。
総負担だけでなく会社の現金残高も確認してください。
会社の利益1,000万円のケース
事業が軌道に乗り、売上1,500万円、経費を引いた会社の利益が1,000万円になった場合です。
| 役員報酬(月額) | 社会保険料(会社+個人) | 所得税・住民税 | 法人税等 | 総負担額(会社+個人) |
|---|---|---|---|---|
| 600万円(月50万円) | 約183.8万円 | 約45.4万円 | 約75.7万円 | 約305.0万円 |
| 840万円(月70万円) | 約247.6万円 | 約98.1万円 | 約14.8万円 | 約360.5万円 |
この場合も、役員報酬600万円(月50万円)の方が、年間の総負担が約55.6万円もお得です。
利益が増えても、むやみに報酬を上げると損をしてしまう可能性があることがわかります。
会社の利益2,000万円のケース
さらに事業が成長し、売上3,000万円、経費を引いた会社の利益が2,000万円になったケースです。
| 役員報酬(月額) | 社会保険料(会社+個人) | 所得税・住民税 | 法人税等 | 総負担額(会社+個人) |
|---|---|---|---|---|
| 1,200万円(月100万円) | 約286.4万円 | 約205.7万円 | 約160.0万円 | 約652.2万円 |
| 1,500万円(月125万円) | 約328.1万円 | 約317.6万円 | 約81.9万円 | 約727.6万円 |
ここでも、役員報酬1,200万円(月100万円)の方が、年間で約75.4万円も負担が少ない結果となりました。
会社の利益がさらに大きいケース(社会保険料の上限)
利益がさらに大きい場合は、考え方が少し変わることがあります。
実は、社会保険料には上限があります。
2026年9月現在の標準報酬月額の上限は、健康保険が139万円、厚生年金が65万円です。
これらは実際の給与額ではなく、保険料計算に使う標準報酬月額の上限です。
最高等級となる報酬月額は、健康保険が135万5,000円以上、厚生年金が63万5,000円以上で、それぞれの上限に達すると、同じ料率・加入条件では給与増額によるその制度の月額保険料は増えません。
また、保険料計算に使う標準賞与額にも上限があり、健康保険は年度(4月1日〜翌年3月31日)累計573万円、厚生年金は同月合計150万円です。 (注:標準報酬月額・標準賞与額の上限は、加入先の最新の保険料額表等で確認してください。)
そのため、会社の利益が非常に大きい場合は、あえて役員報酬を高く設定して社会保険料を上限にし、会社の利益を圧縮して法人税を抑えるという戦略が有効になることがあります。
本記事ではこのケースの数値例は試算していないため、個別にシミュレーションしてください。
ただし、このレベルになると個人の所得税率も高くなります。
配偶者への役員報酬の配分(職務の実態と報酬額の相当性が前提)や退職金の活用なども一般的な検討項目ですが、個別の条件によるため税理士に相談してください。
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ここまで利益帯別のケースを見てきましたが、「自分の場合はどうなるの?」と気になりますよね。
上記のような複雑な計算を自分で行うのは大変です。 そこで、役員報酬決め方ナビ を使えば、あなたの会社の利益やあなたの年齢などを入力すると、指定した報酬の範囲と刻み(月額1,000円または5,000円)の中で、社会保険料・税金の総負担額が最も少なくなる役員報酬額を無料で試算できます。
計算は2026年分所得税・2027年度住民税と、東京都の2026年4月以降の社会保険料率を前提にした概算で、この記事の大阪の計算例とは前提が異なります。
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顧問税理士に相談する前のたたき台として、ぜひご活用ください。
役員報酬を決めるときの3つの注意点
最後に、役員報酬を決める上で見落としがちな注意点を3つご紹介します。
1. 「定期同額給与」のルールを守る
役員報酬を定期同額給与として損金に算入するには、支給額等について税務上の要件を満たす必要があります。
通常の改定は、原則として事業年度開始の日が属する会計期間の開始から3か月以内に行います。
職制上の地位や職務内容の重大な変更等による臨時改定、経営状況の著しい悪化等による減額改定などには例外があります(法人税法施行令第69条)。
一時的な資金繰りの都合や単なる業績目標未達は、業績悪化改定事由には含まれません。
要件を満たさない期中改定では、給与の一部が損金不算入となる場合があります。
変更そのものが一律に禁止されるという意味ではなく、具体的な支給条件は税理士に確認しましょう。
2. 40歳になると介護保険料の負担が始まる
協会けんぽでは、40歳の誕生日の前日が属する月の分から、健康保険料に加えて「介護保険料」の負担が始まります。
1日生まれの方は誕生月の前月分からです。
65歳の誕生日の前日が属する月の分からは、市区町村が徴収する介護保険料に切り替わります。
年途中で40歳になる年の負担増は、対象月数によって異なります。
例えば、月給50万円の場合、会社と本人合わせて年間おおむね約9.72万円(本人負担は約4.86万円、介護1.62%を12ヶ月適用した場合)の負担増となります。
誕生日を迎えるタイミングでシミュレーションを見直すのがおすすめです。
3. 会社のキャッシュフローを考慮する
シミュレーションで総負担が少ない金額がわかっても、その報酬を支払うだけの現金が会社になければ意味がありません。
必ず会社のキャッシュフローを確認し、無理のない範囲で報酬額を決定しましょう。
個人事業主と法人、社会保険と税金の考え方の違い
フリーランスや個人事業主の方で、法人化を検討している方もいらっしゃるかもしれませんね。
ここで、個人事業主と法人で社会保険と税金の考え方がどう違うのか、簡単に見ていきましょう。
- 個人事業主の場合
- 社会保険: 国民健康保険・国民年金第1号被保険者として加入する場合、国民健康保険料は前年の所得や加入人数などに応じて計算されます。国民年金の通常保険料は所得比例ではなく定額で、2026年度は月額17,920円です(免除・猶予・前納割引などは別途)。これらに会社負担分はありません。
- 税金: 所得税と住民税がかかります。青色申告特別控除(最大65万円)などの制度を活用できます。
- 法人の場合
- 社会保険: 法人事業所は原則として健康保険・厚生年金の強制適用です。役員本人の加入資格は、経常的な労務提供とその対価としての報酬など、実態や年齢等の要件で判断します。本記事は協会けんぽ加入を前提とし、健康保険・介護保険・厚生年金・子ども・子育て支援金は労使折半、子ども・子育て拠出金は会社のみの負担です。
- 税金: 法人税、所得税、住民税がかかります。役員報酬は、定期同額給与などの損金算入要件を満たす範囲で会社の損金になります。
法人化すると社会保険料の負担が増える場合がありますが、役員報酬の決め方によって法人税を含めた総負担額は変わります。
知っておきたい!税金と社会保険の期限
税金や社会保険には、それぞれ提出や納付の期限があります。
うっかり忘れてしまわないように、主な期限を確認しておきましょう。
- 個人の所得税・復興特別所得税の確定申告: 原則として翌年3月15日まで(休日の場合は翌営業日)。個人事業者の消費税・地方消費税は原則として翌年3月31日までです。
- 法人税等の確定申告: 事業年度終了の日の翌日から原則2か月以内(休日の場合は翌営業日。申告期限の延長等の特例あり)。
- 健康保険・厚生年金保険料の納付: 対象月の翌月末日(休日の場合は翌日以降の最初の営業日)。
まとめ:専門家への相談とシミュレーションで役員報酬を決める
総負担が少なくなる役員報酬の額は、会社の利益、社長の年齢や家族構成など、様々な要因で変わります。
大切なのは、手取り額だけでなく、社会保険料・所得税・法人税まで含めた「総負担額」で判断することです。
まずは 役員報酬決め方ナビ で、あなたの会社の場合の総負担をシミュレーションしてみてください。
ただし、この記事やツールでわかるのはあくまでシミュレーション上の概算値です。
役員報酬の最終的な決定や、個別の節税対策については、必ず税理士などの専門家にご相談ください。
このツールは、専門家に相談する前の「事前検討ツール」としてご活用いただくのが最も効果的です。
【補足】源泉徴収について 役員報酬の源泉徴収税額は、国税庁が定める「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいて計算されます。
一律10.21%が適用されるのは、特定の報酬・料金(例えば、原稿料や講演料など)の一部区分であり、役員報酬には適用されませんのでご注意ください。
【補足】インボイス制度の経過措置について 適格請求書発行事業者ではない事業者からの課税仕入れについては、必要事項を満たす請求書等と、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存するなどの要件を満たせば、以下の期間で仕入税額相当額の一定割合を控除できます。
2026年10月1日以後に開始する課税期間からは、一の非登録事業者からの課税仕入れ合計額(税込み)がその年または事業年度で1億円を超える場合、その超える部分にはこの経過措置を適用できません。 * 2023年10月1日〜2026年9月30日:仕入税額の80% * 2026年10月1日〜2028年9月30日:仕入税額の70% (出典:国税庁「インボイス制度の概要」)
免税事業者等からの仕入れに関する経過措置は、2028年10月から50%、2030年10月から2031年9月末まで30%です。
簡易課税や2割特例とは別の制度です。
計算機は2026年分の所得税・2027年度の住民税に対応し、社会保険料は2026年4月以降の料率を12か月分に換算した概算です。
実際の暦年の徴収額とは異なります。
法人税等は実効税率による近似で、2026年4月1日以後開始の12か月事業年度の防衛特別法人税を加えます。
記事の税率合算による計算例とは計算方法が異なります。
本記事の計算例は記事内で再計算したもので、計算機の出力ではありません。
社会保険料は制度別に端数処理するため、記事の合算による概算と1円単位の差が出る場合があります。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については顧問税理士にご相談ください。