法人を設立して社長になると、必ず向き合うことになるのが「役員報酬」です。
「役員報酬って、普通の給料と何が違うの?」 「定期同額給与とか、損金算入とか、専門用語が難しくて…」
そんな風に感じている一人社長や小規模法人の経営者の方も多いのではないでしょうか。
【注意】 個人事業主の方には「役員報酬」という概念はありません。
個人事業主の事業の儲けは、そのまま事業主個人の所得となります。
この記事で解説する「役員報酬」は、法人を設立した場合に適用される内容ですので、ご自身の状況に合わせて読み進めてくださいね。
大丈夫です。
役員報酬のルールは一見複雑に見えますが、ポイントさえ押さえれば決して難しくありません。
この記事では、あなたが最低限知っておくべき役員報酬の専門用語を、なるべくわかりやすく解説します。
個人事業主と役員報酬の違いって?法人化を検討する前に知っておこう
個人開発者やフリーランスとして活動されている方は、「役員報酬」という言葉に馴染みがないかもしれませんね。
個人事業主の場合、事業所得に該当する事業で得た利益は、会社からの役員報酬ではなく、ご自身の「事業所得」となります。
不動産の貸付けなどは所得区分が異なります。
会社から給料をもらうという形ではないので、「役員報酬」という概念は存在しないんです。
一方、法人を設立すると、会社とあなたは別人格になります。
会社は会社で利益を出し、あなたは会社の役員として、会社から「役員報酬」という形で給料を受け取ることになります。
つまり、役員報酬は「法人化」して初めて登場する、会社から役員へ支払われる特別な給料だと理解しておきましょう。
そもそも「役員報酬」とは?会社員の給料との違い
まず、一番大事なキホンから。
役員報酬とは、ひとことで言うと「社長や取締役など、役員が会社から受け取る報酬」のことです。
役員報酬も会社員の給料も、受け取る個人の所得税では原則として「給与所得」です。
主な違いは、会社側で損金(税務上の経費)に算入するための要件にあります。
| 役員報酬 | 会社員の給料 | |
|---|---|---|
| 対象者 | 社長、取締役などの役員 | 従業員 |
| 金額の決め方 | 株式会社の取締役は、定款に定めがなければ原則として株主総会決議 | 労働契約・就業規則などで定める |
| 変更の自由度 | 定期同額給与の通常改定は原則として会計期間開始から3か月以内。例外あり | 合意や就業規則変更の要件に従う |
| 税法上の扱い | 法人側の損金算入に特別な要件がある | 通常の従業員給与は原則として損金に算入 |
大きな違いは、役員報酬を会社の損金に算入するには、支給額や改定時期などの要件を満たす必要がある点です。
従業員の給与変更にも労働契約法上の制限があります。
役員報酬も変更自体が一律に禁止されるわけではありませんが、「利益が出たから、今月だけ報酬を増やす」といった支給は、定期同額給与の要件を満たさないおそれがあります。
なぜなら、役員報酬を自由に操作できると、会社の利益を不当に調整(節税)できてしまう可能性があるため、税務署が厳しくチェックしているからです。
【最重要】役員報酬のキホン用語5選
ここからは、役員報酬を決める上で必ず出てくる必須用語を5つご紹介します。
1. 損金算入(そんきんさんにゅう)
一言でいうと、「会社の経費として認められること」です。
「損金」と聞くと少し怖い言葉に聞こえるかもしれませんが、税法上の「経費」だと思ってください。
役員報酬が損金算入されると、その分会社の課税所得が減るため、課税所得がある場合には法人税負担を抑えられます。
逆に、損金算入の要件を満たさない役員報酬は、会計上の費用になっても、税務上は損金に算入できない部分が生じます。
その場合、会社の法人税負担が増える一方、役員個人では給与所得として課税されるという「二重の負担」が生じることがあります。
実際の税負担は、会社の課税所得や個人の所得控除などによって異なります。 (根拠:法人税法第34条および同施行令の関連規定)
だからこそ、役員報酬は「損金算入できるルール」を守ることが鉄則なのです。
2. 定期同額給与(ていきどうがくきゅうよ)
代表的には「毎月決まった日に、決まった金額を支払う役員報酬」です。
税法上は、支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期の支給額などが同額である給与をいいます。
これは、役員報酬を損金算入するための最も基本的な方法です。
「毎月同じ金額」を基本に管理するため、一人社長や小規模法人にとって運用しやすい方法です。
ただし、不相当に高額な部分は損金算入できず、改定時期などの要件も満たす必要があります。
定期同額給与として損金算入を認められる改定は、原則として以下の3つのケースです。
通常改定の期間には一定の特例があり、業績悪化改定事由には一時的な資金繰りの都合や単なる業績目標の未達は含まれません。
- 事業年度開始の日が属する会計期間の開始から原則3か月以内の通常改定
- 役員の職制上の地位の変更や、職務内容の重大な変更があった場合の臨時改定
- 著しい経営悪化による業績悪化改定事由(減額のみ)があった場合の改定
(根拠:法人税法施行令第69条)
3. 事前確定届出給与(じぜんかくていとどけで きゅうよ)
一言でいうと、「役員にボーナス(賞与)を支払うための制度」のことです。
「いつ、誰に、いくら支払うか」を事前に税務署に届け出て、その通りに支払うことで、ボーナスも損金算入が認められます。
ただし、届け出た支給時期や金額のとおりに支給しないと、原則として損金算入が認められないという厳しいルールがあります。
どの支給がどこまで損金にならないかは個別の事情によるため、税理士に確認してください。
実務的には、対象者・支給時期・金額を株主総会等で決議し、所轄税務署に届出期限までに提出する必要があります。
この届出期限は、通常は「株主総会等の決議日(職務開始日が先ならその日)から1か月」と「会計期間開始の日から4か月」のいずれか早い日です。
新設法人が設立時に開始する役員の職務について定める場合は、原則として設立日以後2か月を経過する日が期限です。
期限の特例や変更届の取扱いもあるため、具体的な期限は国税庁の案内で確認してください。
そのため、業績の予測が難しい場合は、届け出たとおりに支給できるかを慎重に検討する必要があります。
まずは「定期同額給与」をしっかり設定することが大切です。
4. 業績連動給与(ぎょうせきれんどうきゅうよ)
一言でいうと、「会社の利益に応じて金額が変わる、業績連動型の役員報酬」のことです。
これは主に上場企業など、客観的な指標を算定できる大企業向けの制度です。
非常に複雑な要件があり、同族会社は原則として対象外です。
社長が株式をすべて持つ一人社長の会社は同族会社に当たるため、原則として使えません。
「こんな方法もあるんだな」くらいの理解で大丈夫です。
5. 株主総会(かぶぬしそうかい)
「一人社長なのに株主総会?」と驚かれるかもしれませんね。
株式会社の取締役の報酬等は、定款に定めがない場合、原則として株主総会の決議で定めます。
合同会社等には、この株主総会の手続きはそのまま当てはまりません。
株主も取締役も自分一人の株式会社であっても、定款の定めや必要な決議・記録を確認しましょう。
実際に集まって開催する代わりに、取締役または株主の提案について、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば、株主総会の決議があったものとみなすことができます。
「株主総会議事録」を作成し、報酬の決定内容を記録します。
みなし決議の場合も議事録が必要で、同意の書面または電磁的記録も保存します。
定款または株主総会決議で報酬額などを定めるのが原則ですが、指名委員会等設置会社では報酬委員会が決定するなど、機関設計によって扱いが異なります。
この議事録が、税務調査の際に「きちんと手続きを踏んで報酬額を決めた」という証拠になります。
社会保険料・税金のキホン用語
役員報酬を決めるときは、社会保険料や税金のことも考える必要があります。
ここでは特に重要な用語を2つだけご紹介します。
1. 標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく)
一言でいうと、「社会保険料(健康保険・厚生年金)を計算するための基準額」のことです。
実際の月給そのものではなく、月給をキリの良い幅で区切った「等級」に当てはめて計算します。
例えば、協会けんぽ東京支部の2026年度の保険料表では、社会保険上の報酬月額が40万円でも40万5千円でも、健康保険・厚生年金の標準報酬月額はどちらも41万円です。
他の手当・現物給与等も含めた報酬月額で、同じ保険者・適用月・年齢区分などの条件なら、毎月の保険料は同額になります。
等級の境目をまたいで標準報酬月額が変わると保険料が変わることがありますが、支給額が境目を1円超えただけで直ちに改定されるわけではありません。
この仕組みを知っておくと、役員報酬の金額を決めるときに、社会保険料の負担を見通すヒントになります。
標準報酬月額は、原則として4月〜6月の報酬のうち支払基礎日数などの条件を満たす月の平均を基に「定時決定」され、9月から翌年8月に適用されます。
固定的賃金が変動し、その変動月以後3か月の平均報酬による標準報酬月額と従前の額に原則2等級以上の差が生じ、支払基礎日数等の要件を満たす場合には「随時改定」が行われ、原則として変動後の報酬を初めて受けた月から数えて4か月目に反映されます。
2. 給与所得控除(きゅうよしょとくこうじょ)
一言でいうと、「役員報酬や給料をもらっている人が、所得税を計算する前に年収から差し引ける経費のようなもの」です。
自営業者の「必要経費」に近いイメージですね。
役員報酬の額に応じて、法律で定められた金額が自動的に差し引かれます。
2026・2027年分の最低保障額は年間74万円です。
2026年分の所得税は改正後の控除額で試算しています。
改正は原則2026年12月1日施行で、同年の年末調整等に反映され、11月までの源泉徴収事務は変わりません。
参照:国税庁「給与所得控除」
自分で計算する必要はありませんが、「年収がそのまま課税対象になるわけではない」と覚えておきましょう。
個人開発者・フリーランスのための役員報酬シミュレーションと法人化のヒント
「用語はわかったけど、じゃあ具体的にいくらにすれば一番トクなの?」 「そもそも、いつ法人化すればいいの?」
そう思われた方も多いでしょう。
負担が少なくなる役員報酬額は、会社の利益や社長個人の状況によって変わるため、計算は非常に複雑です。
また、法人化のタイミングも個人の状況によって様々です。
法人化を検討するタイミングとメリット・デメリット
個人事業主から法人化するタイミングは、主に以下のような点が目安になります。
- 売上が増えてきたとき(特に消費税の免税事業者でなくなる1,000万円超)
- 個人事業者は、原則として基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、その年は消費税の課税事業者になります。法人化後の設立1期目・2期目は、基準期間がないため原則として免税ですが、必ず暦年で2年間免税になるわけではありません。各期首の資本金または出資金が1,000万円以上の場合、特定新規設立法人に該当する場合、特定期間の判定やインボイス登録などにより課税される場合があります。国内事業者の特定期間の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額を用いることもできます。
- 原則課税で実額の仕入税額控除を計算する場合、免税事業者などインボイス発行事業者以外からの課税仕入れは、原則として仕入税額控除ができないため、取引先との関係も考慮が必要です。ただし、経過措置の要件を満たせば、仕入税額相当額のうち2026年9月末までは80%、同年10月から2028年9月末までは70%を控除できます。その後は2030年9月末まで50%、2031年9月末まで30%となります。適用には一定事項を記載した請求書等と、経過措置を適用する旨を記載した帳簿の保存が必要です。また、2026年10月1日以後に開始する課税期間では、一の仕入先からの課税仕入れの合計額(税込み)がその年または事業年度で1億円を超える場合、その超過部分には適用できません。簡易課税や帳簿のみで控除できる特例等は別の取扱いです(国税庁の2026年度改正資料)。
- 所得税の負担が大きくなってきたとき
- 総合課税の所得税本税は、課税所得に応じて5%〜45%の累進税率です。最高税率45%と住民税所得割の標準税率10%を単純に足すと55%ですが、これは復興特別所得税を除く限界税率の比較です。2026年分の復興特別所得税を含む通常の単純比較では55.945%となり、年収全体に掛かる税率や総負担の上限ではありません。会社の法人税率の方が低くなる場合、法人化した方が税負担を抑えられる可能性があります。
- 2026年分の所得税の基礎控除は、居住者で合計所得金額489万円以下の場合に104万円となり、所得が増えると控除額が変わります。非居住者は最高62万円で、住民税とも控除額が異なります(国税庁「基礎控除」)。
- 社会的な信用を高めたいとき
- 法人の方が、個人事業主よりも社会的な信用が得やすい場合があります。
- 社会保険に加入したいとき
- 法人事業所は、事業主のみの場合も原則として社会保険(健康保険・厚生年金)の強制適用となります。役員本人の加入は、経常的な労務提供とその対価としての報酬などの実態・年齢等の資格要件を踏まえて判断します。個人事業主の国民健康保険・国民年金とは、給付の仕組み(厚生年金の上乗せなど)も保険料の負担も異なるため、両面で比べてください。
法人化にはメリットだけでなく、設立費用や維持コスト、事務手続きの増加といったデメリットもあります。
ご自身の事業規模や将来の展望に合わせて慎重に検討しましょう。
フリーランスの源泉徴収について(法人化前の方へ)
法人化前のフリーランスの方で、原稿料やデザイン料、講演料などを受け取っている場合、報酬から所得税が源泉徴収されていることがあります。
- 源泉徴収の対象となる報酬:居住者に国内で支払う原稿料、講演料、デザイン料など、対象となる報酬・料金について、源泉徴収義務のある支払者が所得税・復興特別所得税を天引きして国に納める制度です。給与を支払っていない個人が支払者となる場合などには例外があります。
- 税率:上記の対象報酬は、原則として1回の支払額のうち100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です(2026年の所得税・復興特別所得税を含む)。求めた税額は1円未満を切り捨てます。消費税等込みの金額が原則ですが、請求書等で報酬と消費税等を明確に区分した場合は報酬部分のみを対象とすることもできます。
- 確定申告での精算:源泉徴収された税金は、年末調整では精算されません。確定申告を行うことで、年間の所得税額が確定し、源泉徴収された金額との差額が還付されたり、追加で納税したりすることになります。
ご自身の報酬が源泉徴収の対象かどうか、また、確定申告でどのように精算されるかを確認しておくことが大切です。
まとめ:まずは「定期同額給与」と「損金算入」を覚えよう
たくさんの用語が出てきて、少し頭が混乱してしまったかもしれませんね。
でも、大丈夫です。
一人社長や小規模法人の経営者がまず絶対に押さえるべきなのは、たった2つです。
- 損金算入: 役員報酬を税務上の経費にするためのルール。認められない場合、会社と個人で「二重の負担」が生じることがある。
- 定期同額給与: 損金算入するための基本となる方法。「毎月同額」が合言葉。損金算入が認められる改定は原則3つのケース。
この2つさえ理解しておけば、役員報酬の基本はOKです。
役員報酬額をシミュレーションしてみませんか?
「用語はわかったけど、じゃあ具体的にいくらにすれば一番トクなの?」
そう思われた方も多いでしょう。
負担が少なくなる役員報酬額は、会社の利益や社長個人の状況によって変わるため、計算は非常に複雑です。
当サイトが運営する「役員報酬決め方ナビ」は、指定した報酬の範囲と刻み(月額1,000円または5,000円)の中で、会社と個人の税金・社会保険料の負担の合計が最も少なくなる役員報酬額を概算します。
計算は2026年分所得税・2027年度住民税と、東京都の2026年4月以降の社会保険料率を前提にしています。
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個人事業主の方は、法人化後に本ツールが有効です。まずは現在の所得・社会保険・消費税の状況を確認し、法人化のメリット・デメリットを検討してみましょう。 顧問税理士に相談する前のたたき台としても、ぜひご活用ください。
シミュレーションツールの結果は概算です。
利用時には適用年度・控除額・保険料率を確認し、2026年の改正内容と異なる場合は税理士への相談時に補正してください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については顧問税理士にご相談ください。