「会社の株はほとんど自分が持っているのだから、役員報酬は自由に決めても良いのだろうか?」 「家族も役員に入れているけれど、持株比率と給与のバランスはどう考えればいいんだろう?」
会社のオーナー社長であれば、一度はこんな風に考えたことがあるかもしれませんね。
特に、ご家族が役員として経営に参加している場合、報酬の決め方は悩ましい問題です。
本記事の会社法上の説明は、指名委員会等設置会社を除く株式会社の取締役を対象とします。個人事業主が生計を一にする親族への給与を必要経費にするには、青色申告、年齢、専従期間、届出等の要件を満たす必要があります。白色申告の場合は別の事業専従者控除をご確認ください。
この記事では、多くの中小企業オーナーが気になる「持株比率と役員報酬の関係」について、資本政策という視点から、2026年最新税制と法令根拠に基づき、具体的なケーススタディをもとに分かりやすく解説していきます。
結論:役員報酬は「適切な決定手続き」と「職務内容等に見合う金額」が重要
役員報酬は、社長が全株式を保有していても、所定の決定手続きを踏む必要があります。
- 定款または株主総会決議による決定: 会社法第361条により、取締役の報酬等に関する事項を定款で定めていない場合は、株主総会の決議で定めます。議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で同意した場合には、決議があったものとみなす制度もあります。
- 職務内容等に見合う金額: 法人税法上、役員給与のうち不相当に高額な部分は会社の経費(損金)に算入できません。職務内容に加え、会社の収益、使用人の給与、同業・同規模法人の支給状況等を考慮します。
持株比率は通常、株主総会での議決権の割合に関係しますが、種類株式等の内容によって一致しない場合があります。
役員報酬の妥当性は、持株比率だけでなく、各役員の職務内容や会社の収益、同業・同規模法人の支給状況等から検討します。
この2つのバランスを取ることが、適切な役員報酬設計の鍵となります。
2026年最新税制:役員報酬設計に影響する税金の基本
役員報酬を決定する上で、個人の所得税・住民税、そして法人の法人税への影響を理解することは不可欠です。
2026年最新の税制改正も踏まえ、主要な税金の基本を確認しましょう。
基礎控除の拡充(令和8年分)
居住者の令和8・9年分(2026・2027年分)の所得税の基礎控除は、合計所得金額に応じて最大104万円です。
これは個人の手取り額に影響を与える重要な変更点です。
| 合計所得金額 | 基礎控除額(令和8・9年分) |
|---|---|
| 489万円以下 | 104万円 |
| 489万円超655万円以下 | 67万円 |
| 655万円超2,350万円以下 | 62万円 |
| 2,350万円超2,400万円以下 | 48万円 |
| 2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
| 2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 |
上の表は、居住者の通常の年末調整・確定申告で用いる改正後の基礎控除額です。
改正は原則2026年12月1日施行で、2026年分に適用され、11月までの源泉徴収事務は変わりません。
ただし、同年11月30日以前に死亡・出国に伴う準確定申告書を提出する場合は改正前の額を用い、12月1日以後、更正の請求により改正後の額を適用できます。
非居住者の基礎控除は2026年分以後、最高62万円です。
参照:国税庁「基礎控除」。
過年度との比較は国税庁「令和7年度の基礎控除改正」をご確認ください。
所得税率(7段階)
総合課税の所得税本税は、課税所得に応じて5%から45%までの7段階の速算表で計算できます。
課税所得の1,000円未満は切り捨てます。
分離課税は別の計算です。
| 課税される所得金額 | 税率 | 速算控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円~1,949,000円 | 5% | 0円 |
| 1,950,000円~3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円~6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円~8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円~17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円~39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
所得税本税は「課税所得×税率−速算控除額」で求めます。
2026年分は、税額控除等を反映した基準所得税額に対し、原則2.1%の復興特別所得税が別途かかります。
極めて高い所得には追加課税の特例があるため、該当する場合は国税庁の説明をご確認ください。
参照:国税庁「所得税の税率」
住民税の所得割(総合課税の標準税率は合計10%)
給与所得等の総合課税に対する住民税の所得割の標準税率は、市町村民税6%と道府県民税4%の合計10%です。
指定都市では市民税8%・道府県民税2%です。
超過課税や分離課税など、異なる取扱いもあります。
住民税は原則として前年の所得に課されるため、2026年の給与所得は2027年度の住民税に反映されます。
所得控除・税額控除は所得税と異なり、所得税の課税所得に10%を掛ければ最終税額になるわけではありません。
これに加え、非課税の場合を除き、均等割(自治体による加算がある場合があります)と国税の森林環境税が課されます。
参照:e-Gov「地方税法」、e-Gov「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」
役員報酬決定の法的根拠と手続き(会社法・法人税法)
役員報酬の決定は、会社の法律と税法の両面から厳格なルールが定められています。
会社法に基づく決定手続き
会社法第361条では、取締役の報酬等について、定款に必要な事項を定めていない場合は株主総会の決議で定めます。
金銭報酬の額が確定している場合はその額、確定していない場合は具体的な算定方法を定めます。
指名委員会等設置会社では、報酬委員会が個人別の報酬等を決定する別の取扱いがあります。
これは、役員が会社の経営を担う立場であるため、報酬額を自由に決められると株主の利益を損なう可能性があるためです。
株主総会議事録の作成手順
株主総会で取締役の報酬を決定した場合は、議事録を作成します。
開催した総会の議事録には、会社法施行規則第72条に従い、次の事項を記載します。
- 開催日時・場所(会場外からの出席方法を含む)
- 議事の経過の要領・結果
- 法令で指定された意見・発言がある場合は、その内容の概要
- 出席した取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人の氏名または名称
- 議長がいる場合は、その氏名
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
株主の出席状況・議決権数も、決議要件を確認できるよう記録しておきましょう。
報酬の金額・支給方法・対象期間など、実際に決議した内容も明確にします。
会社法第319条のみなし決議の場合は、みなし決議の内容、提案者の氏名または名称、決議があったとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載します。
総会を開催した場合と記載事項が異なるため、実際の手続きに合う議事録を作成・保管しましょう。
法人税法上の「損金算入」と「不相当に高額な役員給与」
法人税法では、役員給与が会社の経費(損金)として認められるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
主な役員給与の類型は以下の通りです。
- 定期同額給与: 1か月以下の一定の期間ごとに、原則として各支給時期の支給額等が同額である給与です。通常の改定は原則として会計期間開始から3か月以内ですが、職務内容の重大な変更等による臨時改定や、経営状況の著しい悪化等による減額改定など、一定の例外があります。一時的な資金繰りや単なる目標未達だけでは、業績悪化改定事由に当たりません。
- 事前確定届出給与: 所定の支給時期と金額等をあらかじめ定め、原則として期限内に届け出、その定めどおりに支給する給与です。通常の届出期限は、決議日(決議が職務執行開始日より後ならその開始日)から1か月を経過する日と、会計期間開始から4か月を経過する日のいずれか早い日です。新設法人が設立時に開始する職務について定めた場合は設立日以後2か月を経過する日です。届出不要の給与、申告期限の指定、臨時改定等による例外は国税庁の説明を確認してください。
- 業績連動給与: 業績を示す指標等に基づく給与です。損金算入できるのは、非同族法人や非同族法人による完全支配関係がある同族会社が、業務執行役員に支給するもので、客観的な算定方法、適正な決定手続き・開示等の要件を満たす場合に限られます。
上記3類型の要件を満たさない役員給与は、原則として損金に算入できません。
ただし、業績連動給与に該当しない退職給与や、使用人兼務役員の使用人としての職務に対する給与には別の取扱いがあります。
また、類型の要件を満たしても、不相当に高額な部分は損金に算入できません。
事実を隠蔽・仮装して経理した役員給与は、全額が損金不算入です。
そもそも「資本政策」とは?(中小企業向けに解説)
「資本政策」と聞くと、スタートアップ企業の資金調達やIPO(株式上場)といった、少し遠い世界の話のように聞こえるかもしれません。
しかし、中小企業や家族経営の会社にとっても、資本政策は無関係ではありません。
中小企業における資本政策とは、「誰が、どれくらいの割合で会社の株式を持つか」を決め、会社の支配権(コントロール)をどう安定させるかという、経営の根幹に関わる重要なテーマなのです。
社長が全議決権を有する場合、株主総会事項を単独で可決できるのが通常ですが、取締役会の決議など、会社の機関設計に応じた手続きは必要です。
しかし、家族や他の役員が株式を持っている場合、その比率によって意思決定のプロセスや、役員報酬の決め方にも影響が出てくるのです。
ケーススタディ:社長が株式の80%を保有する会社の役員報酬
それでは、具体的なケースで考えてみましょう。
- 会社: Web制作会社(売上5,000万円)
- 株主構成:
- 社長(夫): 80%
- 役員(妻): 10%
- 役員(社長の弟): 10%
- 役員の業務内容:
- 社長: 経営全般、主要クライアントの営業担当
- 妻: 経理・総務全般を担当
- 弟: 開発チームのリーダー、技術責任者
議決権割合も80%で、定款に決議要件の加重等がなければ、社長は通常の株主総会決議や多くの特別決議を単独で可決でき、意思決定の主導権を持ちやすい構成です。
この状況で、それぞれの役員報酬はどのように決めるべきでしょうか?
論点:持株比率と「仕事への貢献度」のバランス
役員報酬は、その役員がどれだけ会社の利益に貢献しているか、どんな責任を負っているかに基づいて決めるのが基本です。
役員給与のうち、不相当に高額な部分は会社の経費(損金)に算入できません。
その判断では、持株比率との釣り合いだけでなく、職務内容、会社の収益、使用人の給与、同業・同規模法人の支給状況等を確認します。
注意が必要な例
例えば、妻への報酬が、その職務内容や会社の収益、同業・同規模法人の支給状況等に照らして不相当に高額であれば、その高額な部分は損金に算入できません。
ただし、持株比率が10%であることや、社長と同額であることだけで、不相当に高額または配当と判断されるわけではありません。
貢献度を踏まえて検討する例
弟の持株比率は10%ですが、技術責任者としての職務内容や責任は、報酬額を検討する要素です。
ただし、技術責任者であることだけで高額な報酬が税務上認められるとはいえません。
会社の収益や同業・同規模法人の支給状況等も含めて検討しましょう。
「不相当に高額な役員給与」と判断されないために
役員の退職給与以外の給与については、主に次の2つの基準で確認します。
- 実質基準: 職務内容、会社の収益、使用人への給与の支給状況、同業・同規模法人の役員給与の支給状況等に照らして、相当な対価を超えていないか。
- 形式基準: 定款や株主総会等で定めた支給限度額等を、実際の支給額が超えていないか。
それぞれの基準による超過額を算出し、原則として多い方の金額が損金不算入となります。
単に決議額と異なるかという問題や、すべての要素をひとまとめにする判断ではありません。
まとめ:最適な役員報酬設計のためのチェックリスト
持株比率と役員報酬のバランスは、税務上のリスクも絡むデリケートな問題です。
最終的な判断は、必ず顧問税理士に相談することをお勧めします。
税理士に相談する前に、ご自身の会社で以下の点を整理しておくと、話し合いがスムーズに進むでしょう。
- 各役員の具体的な職務内容は何か?
- その仕事内容は、同業他社の同じ役職の人と比べて妥当か?
- 会社の定款や株主総会の議事録は整備されているか?
- 通常の報酬改定は原則として会計期間開始から3か月以内か? それ以外の改定は、臨時改定事由・業績悪化改定事由等の要件を満たすか?
役員報酬の決め方は、会社の成長と安定経営に直結する重要なテーマです。
ぜひこの機会に、ご自身の会社の状況を見直してみてはいかがでしょうか。
これらの要素を考慮しながら、会社と個人の手残りが最大になるようなバランスを見つけるのは、なかなか複雑な計算が必要です。
そんな時は、シミュレーションツールを使ってみるのも一つの手です。
役員報酬決め方ナビを、報酬額を検討する参考としてご活用ください。
役員報酬のシミュレーションを確認する 役員報酬決め方ナビへ →
結果は概算であり、報酬額の税務上の妥当性や加入資格を保証するものではありません。
社会保険料は、加入先・年齢・地域・適用月・標準報酬月額等で異なります。
報酬改定が保険料に直ちに反映されるとは限らないため、試算条件を確認してください。
利用時には、所得税の年分、住民税の年度、控除額、保険料率・適用月、加入条件を確認してください。
条件が合わない場合は結果をそのまま判断に用いず、税務は税理士、社会保険は年金事務所や加入先等へ確認してください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については顧問税理士にご相談ください。