会社の利益が3,000万円を超えると、経営者として嬉しい反面、「役員報酬はこのままで良いのだろうか?」という新たな悩みが出てきますよね。
事業の成長に合わせて報酬を見直したいけれど、税金や社会保険料の負担も気になる…という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、2026年版(令和8年分)の税制・社会保険制度を前提に、会社の利益3,000万円の成長企業をモデルに、具体的なケーススタディを通じて、成長投資と役員報酬のバランスを見つけるための考え方と手順を解説します。
この記事で分かること: - 会社の利益3,000万円の企業のリアルな報酬設定の悩み - 成長投資と役員報酬の総額を決める考え方 - 夫婦で役員を務める場合の3パターンの報酬配分比較 - 無料で使えるシミュレーションツールの活用法
今回のケーススタディ:会社の利益3,000万円のITサービス企業
まずは、今回のモデルケースとなる企業の状況を見てみましょう。
- 会社概要: 設立5期目のITサービス企業
- 役員構成:
- 代表取締役(45歳・夫)
- 取締役(42歳・妻)
- 従業員数: 5名
- 経営状況:
- 売上(年商): 1億2,000万円
- 経費(以下で比較する役員報酬・会社負担社会保険料を除く): 9,000万円
- 会社の利益(役員報酬・会社負担社会保険料の支払前): 3,000万円
- 現在の役員報酬:
- 代表取締役: 月額100万円(年収1,200万円)
- 取締役(妻): 月額30万円(年収360万円)
- 合計: 1,560万円
経営者の悩み: 「今期は売上が大きく伸び、利益も3,000万円出そうだ。来期はさらに事業を拡大するために投資もしたいが、夫婦の報酬も見直したい。会社と個人の手残りを最大化するには、どのような報酬設定が良いのだろうか?」
シミュレーションの前提条件(2026年版・令和8年分)
今回のシミュレーションは、以下の前提条件に基づいています。
ご自身の状況に合わせて読み替えてくださいね。
- 対象年分: 2026年(令和8年分)
- 協会けんぽ都道府県: 東京都
- 介護保険: 夫45歳・妻42歳のため両者に適用(1.62%を労使折半)
- 厚生年金保険料率: 18.3%(会社と個人で折半)
- 雇用保険: 両者とも被保険者である兼務役員には該当せず、対象外
- 健康保険料率: 東京9.85%、支援金0.23%を労使折半。別途、厚生年金の標準報酬月額を基に、会社のみが子ども・子育て拠出金0.36%を負担
- 標準報酬月額: 健康保険と厚生年金の等級・上限をそれぞれ適用し、その等級が12か月続く比較モデルとする。実際の報酬改定時は、随時改定の要件を満たす場合、原則として改定後4か月目から新等級になるなど、反映時期に差がある
- 法人税等: 後述の所得帯別税率で概算
- 所得税・住民税: 2026年分の給与所得控除、所得に応じた基礎控除、社会保険料控除を考慮し、その他の所得控除・税額控除は考慮しない
- 賞与: なし(定期同額給与のみを想定)
- 端数処理: 所得税の課税所得は1,000円未満、復興特別所得税込みの年調年税額は100円未満を切り捨て。社会保険料は折半額を合算する概算とし、住民税の市区町村・都道府県別の端数処理、法人税等の税目別申告端数は省略。表は丸め前に合計し、万円単位の小数第1位に丸めて表示するため、表示内訳の和と総額が一致しない場合がある
- その他: 夫婦とも居住者で給与以外の所得はなく、所得金額調整控除の対象にも該当しない。配偶者控除・扶養控除など、明記したもの以外の控除は考慮しない
※上記の税率や料率は、今後の法改正により変更される可能性があります。
年額は2026年4月以降の保険料率を12倍した比較用の年換算で、実際の2026年1〜12月の納付額とは異なります。
所得税は2026年分の年税額(復興特別所得税込み)、住民税は同じ所得に対応する2027年度分を概算。
給与所得控除を適用し、2026年分所得税の基礎控除は合計所得金額489万円以下で104万円、489万円超655万円以下で67万円、655万円超2,350万円以下で62万円として計算しています。
住民税は標準税率10%、基礎控除43万円、均等割4,000円と森林環境税1,000円を仮定し、自治体独自の加算と調整控除は省略しています。
本例の調整控除は通常各人2,500円、夫婦合計5,000円となり、省略分だけ住民税を多めに概算しています(税額の端数処理による差は別途)。
2026年の所得税改正は原則12月1日施行で、11月までの月次源泉徴収は従前の扱いです。
法人税等は、東京23区内の単一事務所を持つ普通法人の12か月事業年度を想定します。
資本金等の額と資本金・資本準備金の合計額はいずれも1,000万円以下、従業者50人以下で、大法人による完全支配、軽減税率の適用除外事業者、グループ通算制度、外形標準課税の対象には該当せず、東京都の不均一課税による下記税率の適用条件を満たすものとします。
法人税は所得800万円以下の部分15%・超過部分23.2%、地方法人税は法人税額の10.3%、法人住民税法人税割は7%、均等割は年7万円、事業税は所得400万円以下の部分3.5%・400万円超800万円以下の部分5.3%・800万円超の部分7%として計算しています。
特別法人事業税は、標準税率で計算した基準法人所得割額の37%です。
前年事業税等の損金算入・税額控除・申告端数の細部は省略。
防衛特別法人税は2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
本例は同日以後開始の12か月事業年度を仮定し、基準法人税額が500万円以下のため税額は0円です。
短期事業年度では500万円の基礎控除を月数按分します。
また、税額が0円でも申告は必要です。
計算根拠
役員報酬を決める3つのステップ
このような状況で役員報酬を戦略的に決めるには、大きく分けて3つのステップで考えるのがおすすめです。
- ステップ1:報酬総額の決定(成長投資とのバランス)
- ステップ2:役員間の報酬配分(会社と個人の総負担を比較)
- ステップ3:シミュレーションで3案を比較する(税金・社会保険料の比較)
順番に見ていきましょう。
ステップ1:報酬総額の決定(成長投資とのバランス)
最初に決めるべきは、「会社に残す利益」と「役員報酬として受け取る金額」のバランスです。
今回のケースでは、会社の利益が3,000万円あります。
この全額を役員報酬にすると、会社の成長投資に回す資金がなくなってしまいます。
一方で、利益をすべて会社に残すと、多額の法人税がかかってしまいます。
そこで、来期の事業計画を基に、必要な内部留保(成長投資資金)を決めます。
- 来期の採用・設備投資: 1,000万円
- 納税資金・予備費: 200万円
- 合計: 1,200万円
差額の1,800万円をひとまず報酬候補として比較します。
利益と現預金は一致しないため、実際の投資資金は資金繰り表でも確認してください。
ただし、ここから会社負担社会保険料と法人税等も出るため、1,200万円を税引後で確保できる設定ではありません。
会社の利益3,000万円 - 会社に残す利益1,200万円 = 報酬・会社負担社会保険・法人税等の検討原資1,800万円
ステップ2:夫婦間の報酬配分(3パターンを比較)
次に、報酬総額1,800万円を夫婦間でどう配分するかを考えます。
所得税は累進課税(所得が高いほど税率が上がる)のため、一人に集中させるより、分散させた方が世帯全体での税負担が軽くなることが多いです。
ここでは、3つのパターンを比較してみましょう。
- パターンA:夫に集中させる
- 夫:1,500万円(月額125万円)
- 妻:300万円(月額25万円)
-
パターンB:バランス良く配分する
- 夫:1,000万円(月額 約83万円)
- 妻:800万円(月額 約67万円)
パターンBは年額を12で割った理論月額による比較です。
月額83万円・67万円をそのまま支給すると年額は996万円・804万円になり、この表とは別の入力になります。
円単位の同じ月給を12回支給する実務では、月額を確定して年額・税額を再計算してください。 - パターンC:少し差をつけて配分する - 夫:1,200万円(月額100万円) - 妻:600万円(月額50万円)
どのパターンが会社と個人の総負担を抑えられるか、比較してみましょう。
多くの方が悩むポイントですが、実は税金や社会保険料の複雑な計算が必要になります。
ステップ3:シミュレーションで3案を比較する
ここで役立つのが、役員報酬のシミュレーションです。
社会保険料や税金を考慮して、提示した3案の会社と個人の総負担を比較します。
上記の計算を自分で行うのは大変ですよね。 そこで、役員報酬決め方ナビのような無料ツールを使えば、社会保険料・所得税・法人税を自動計算し、入力条件に基づく報酬案を比較できます。
【重要】 前述の「シミュレーションの前提条件」に基づいたシミュレーション結果(概算)は以下のようになりました。
あくまで概算ですので、ご自身の状況で必ずシミュレーションツールをご活用くださいね。
| パターン | 夫の年収 | 妻の年収 | 会社と個人の総負担額(概算) | 内訳(法人税等、社会保険料、所得税・住民税) |
|---|---|---|---|---|
| パターンA | 1,500万円 | 300万円 | 約1016.9万円 | 法人税等:265.4万円、社会保険料:418.6万円、所得税・住民税:332.8万円 |
| パターンB | 1,000万円 | 800万円 | 約986.2万円 | 法人税等:249.6万円、社会保険料:503.1万円、所得税・住民税:233.5万円 |
| パターンC | 1,200万円 | 600万円 | 約973.8万円 | 法人税等:256.7万円、社会保険料:465.3万円、所得税・住民税:251.8万円 |
会社の税引後残金はA約723.3万円、B約696.1万円、C約708.2万円で、いずれも目標1,200万円に届きません。
成長資金を確保するには報酬総額を下げて再比較してください。
※総負担額 = 法人税等 + 社会保険料(会社・個人負担) + 所得税・住民税(夫婦合計)
この前提で比較した3案では、パターンC(夫1,200万円、妻600万円)の会社と個人の総負担が最小です。
ただし全配分の最適解を示すものではなく、会社単独の税引後残金はAが最大です。
会社資金と世帯資金は分けて考え、職務に見合う報酬額と必要な投資資金を確認しましょう。
パターンAに比べて、年間で約43.1万円も負担が軽くなる計算です。
AからCへの配分変更では個人税が減りますが、BとCではCの個人税が高く、社会保険料の減少がそれを上回ります。
所得税だけでなく会社負担分を含む総負担で比較することが大切です。
決める前に知っておきたい注意点
株式会社の取締役の報酬等は、定款に定めがない場合、原則として株主総会(定時・臨時いずれも可)の決議で総額などを定めます(会社法第361条)。
個々の取締役への配分を、決議した総額の範囲内で取締役会に委任する方法もあります。
ただし、監査等委員である取締役の報酬は区分して定め、個別配分にも別の規定があります。
指名委員会等設置会社では報酬委員会が決定するなど、会社の機関設計に応じた確認が必要です。
定期同額給与の通常改定は、原則として事業年度開始の日が属する会計期間の開始から3か月以内に行います(法人税法施行令第69条)。
職制上の地位や職務内容の重大な変更等による臨時改定、経営状況の著しい悪化等による減額改定などには例外があります。
一時的な資金繰りの都合や単なる業績目標未達は、業績悪化改定事由には含まれません。
要件を満たさない期中改定では、給与の一部が損金不算入となる場合があります。
対象額は増額・減額の経緯等で異なるため、単純に「増減額だけ」と判断せず、具体的な支給条件を税理士等に確認してください。
役員報酬に関するその他の注意点
- 過大役員給与: 役員報酬が、その役員の職務内容や会社の規模に比べて不相当に高額だと判断されると、不相当に高額な部分が損金不算入となる可能性があります。職務内容に見合った合理的な金額設定が大切です。
- 事前確定届出給与: 定期同額給与とは別の損金算入類型で、所定の時期・確定額に従って支給する役員賞与等が対象です。現金賞与では原則として届出が必要で、通常の期限は「決議日(職務開始が先ならその開始日)から1か月」と「会計期間開始から4か月」の早い日です。新設法人の設立時に開始する職務については原則として設立日以後2か月が期限です。期限の特例もあり、届出だけでなく支給時期・金額などの要件を満たし、過大部分にも注意する必要があります。
- 社会保険の適用誤り: 法人事業所は原則として社会保険の強制適用です。役員本人の資格は、経常的な労務提供とその対価としての報酬など、実態や年齢等の要件を踏まえて判断します。役員登記や「非常勤」という呼称だけで加入・除外を決めず、適用を確認しましょう。
個人開発者・フリーランスの方へ:法人成りで役員報酬を考える際のポイント
個人事業主やフリーランスの方が法人成り(会社設立)を検討する際、役員報酬の決め方は特に重要なポイントになります。
ここでは、法人成りならではの注意点や、よくある疑問について解説しますね。
1. 消費税の「壁」とインボイス制度
個人事業主の場合、原則として基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、その年は消費税の課税事業者になります。
基準期間が1,000万円以下でも、特定期間(前年1月〜6月)の判定やインボイス登録などにより課税される場合があります。
特定期間の判定では、課税売上高に代えて給与等支払額を用いることもできます。
法人成り後の第1期・第2期も、各期首の資本金または出資金が1,000万円以上の場合、特定新規設立法人に該当する場合、第2期の特定期間の判定やインボイス登録などにより課税される場合があり、自動的に2年間免税とは限りません。
- インボイス登録の要否: 取引先が原則課税で仕入税額控除を受ける場合などには、インボイスの発行を求められることがあります。登録は任意ですが、登録を受けると売上規模にかかわらず消費税の納税義務が生じます。免税事業者が課税期間の途中で登録する場合は、原則として登録日以後の取引が課税対象となるため、役員報酬設定と合わせて消費税の負担も考慮しましょう。
- 簡易課税制度: 基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、原則として適用を受ける課税期間の初日の前日までに選択届出書を提出するなどの要件を満たせば、簡易課税制度を選択できます。登録に伴う届出期限の特例や適用制限もあるため、国税庁の案内で確認しましょう。業種によってみなし仕入れ率が異なるため、ご自身の事業内容で有利な方を比較するのがおすすめです。
2. 社会保険の加入義務とコスト
個人事業主の多くは国民健康保険・国民年金第1号被保険者となりますが、他の勤務先の被保険者や被扶養者となる場合などは扱いが異なります。
法人成り後は、法人事業所の適用と役員本人の資格を上記の要件に沿って確認します。
- 保険料の会社負担: 本例の健康保険・介護保険・厚生年金保険・子ども・子育て支援金は労使折半ですが、子ども・子育て拠出金は会社のみが負担します。会社負担分も含めた総コストで比較しましょう。
- 「扶養の壁」の誤解: 妻が役員として健康保険・厚生年金の被保険者資格を満たす場合、被扶養者の収入基準を下回るだけでは保険料を免れません。役員登記だけで資格が決まるわけではなく、報酬に応じた標準報酬月額等を基に保険料が計算されます。
3. 配偶者への報酬配分は「職務内容」が重要
「税金が安くなるから」と安易に配偶者に役員報酬を分散させようと考える方もいますが、注意が必要です。
- 職務内容の合理性: 配偶者への役員報酬は、その職務内容や貢献度に見合った合理的な金額でなければなりません。職務実態のない支給は損金算入が認められないリスクがあります。特に、事実を隠蔽・仮装して経理した役員給与は全額が損金不算入となり、不相当に高額な部分の問題とは区別されます。
- 議事録の整備: 株主総会議事録などで職務内容や報酬決定の経緯を記録し、実際の業務内容・実績も残しておくことが大切です。議事録があるだけで報酬の相当性や損金算入が保証されるものではありません。
4. 実務で役立つ情報源
役員報酬や税金に関する最新情報は、以下の公式情報を参考にすると良いでしょう。
まとめ:成長企業の役員報酬は戦略的な意思決定
会社の利益が3,000万円を超える成長企業にとって、役員報酬の決定は、会社の成長戦略と密接に関わる重要な意思決定です。
- まず会社の成長に必要な利益を確保する
- 会社負担社会保険料・法人税等も見込み、職務に見合う報酬配分を比較する
- シミュレーションツールを活用して、複数のパターンを比較検討する
このステップで考えることで、成長投資と節税の両立を目指せます。
今すぐ無料でシミュレーションしてみましょう
ご自身の会社の場合はどうなるか、気になりませんか? 役員報酬決め方ナビなら、入力条件に基づく概算を比較し、報酬設定のたたき台を作れます。
- ✅ 完全無料(広告なし、登録不要)
- ✅ 社会保険料・所得税・法人税を自動計算
- ✅ 複数パターンの比較が可能
顧問税理士に相談する前のたたき台作りとして、ぜひご活用ください。
計算機は2026年分の所得税・2027年度の住民税に対応し、社会保険料は2026年4月以降の料率を12か月分に換算した概算です。
実際の暦年の徴収額とは異なります。
法人税等は実効税率による近似で、2026年4月1日以後開始の12か月事業年度の防衛特別法人税を加えます。
記事の税率合算による計算例とは計算方法が異なります。
本記事の計算例は記事内で再計算したもので、計算機の出力ではありません。
実際の社会保険料の給与天引きは、原則として制度ごとに50銭以下を切り捨て、50銭超を切り上げます(特約による扱いもあります)。
記事の合算概算とは、月額だけでなく年額でも差が出る場合があります。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については顧問税理士にご相談ください。