【2025年最新】賞与の健康保険料上限は573万円!厚生年金との違いを計算例で解説
法人化して利益が出たとき、「役員報酬として自分に賞与を出したい」と考える一人社長やフリーランスの方も多いのではないでしょうか。
しかし、賞与には高額な社会保険料がかかるのが悩みの種。もし上限があれば、負担を抑えられるのに…と考えますよね。
結論から言うと、賞与の社会保険料には上限がありますが、「健康保険」と「厚生年金」で上限のルールが全く異なります。 この違いを知らないと、資金計画を大きく見誤る可能性があります。
この記事では、一人社長や小規模法人経営者の方(法人役員が対象であり、個人事業主は社会保険上の賞与の概念がないため対象外です)に向けて、複雑な賞与の社会保険料の上限について、正しいルールと計算例、税務上の注意点をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 健康保険料と厚生年金保険料の、全く異なる上限の仕組み
- 健康保険料の「年度累計573万円」上限
- 厚生年金保険料の「1回あたり150万円」上限
- 上限を適用した際の具体的な保険料計算例
- 役員賞与を支給する前に知っておくべき税務上の注意点
- 賞与支払届の提出期限
【用語の定義】
- 年度: 毎年4月1日から翌年3月31日までの期間を指します。
まずは基本!「標準賞与額」とは?
社会保険料を理解する上で、まず知っておきたいのが「標準賞与額」という言葉です。これは、実際に支給した賞与の額そのものではなく、社会保険料を計算するために使う基準額のことです。
標準賞与額 = 支給した賞与の総額から1,000円未満を切り捨てた額
例えば、1,234,567円の賞与を支給した場合、標準賞与額は1,234,000円となります。社会保険料は、この「標準賞与額」に各保険料率を掛けて計算されます。 なお、保険料計算後の端数処理(円未満の切り捨てなど)は、各保険者(協会けんぽ、健康保険組合など)や年金事務所の規定によります。
【最重要】健康保険と厚生年金で全く違う上限ルール
ここが最も重要なポイントです。賞与にかかる社会保険料の上限は、健康保険と厚生年金で仕組みが大きく異なります。
健康保険料の上限 → 年度累計で573万円
健康保険料(40歳以上65歳未満(65歳到達月の前月まで) の方は介護保険料も含む)の計算対象となる標準賞与額は、年度(毎年4月1日~翌年3月31日)の累計で573万円が上限です。
ポイントは「累計」であること。1回あたりの支給額に上限はなく、年度内の賞与を合算していき、573万円を超えた分については健康保険料がかからなくなります。 65歳以上の方は介護保険料の負担はありません。
厚生年金保険料の上限 → 1回あたり150万円
一方、厚生年金保険料の計算対象となる標準賞与額は、賞与を支払う都度、150万円が上限です。
健康保険と違い、年度の累計上限はありません。 夏と冬に200万円ずつ賞与を支給した場合、夏は150万円、冬も150万円がそれぞれ計算対象となり、合計300万円に対して厚生年金保険料がかかります。
【一覧表】上限ルールの違い
| 保険の種類 | 1回あたりの上限 | 年度の累計上限 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | なし | 573万円 |
| 厚生年金保険料 | 150万円 | なし |
具体例:年間600万円の賞与を1回で支払った場合
では、正しいルールで社会保険料を計算してみましょう。
【前提】
- 社長1人だけの会社(40歳以上65歳未満と仮定)
- 8月に600万円の賞与を一度に支給
- この年度、他に賞与の支給はない
- 保険料率(例):東京都、協会けんぽ、令和7年度(2025年度)
- 健康保険料率:9.91%
- 介護保険料率:1.59%
- 合計健康保険料率(介護保険料含む): 9.91% + 1.59% = 11.50%
- 厚生年金保険料率:18.3% ※健康保険組合に加入している場合は、料率が異なる場合があります。ご自身の加入している健康保険組合の料率をご確認ください。
健康保険料の計算
- 計算対象額: 573万円(年度累計上限が適用)
- 保険料(労使合計): 573万円 × 11.50% = 659,000円
- 内訳: 被保険者負担 329,500円(5.75%)、事業主負担 329,500円(5.75%)
厚生年金保険料の計算
- 計算対象額: 150万円(1回あたりの上限が適用)
- 保険料(労使合計): 150万円 × 18.3% = 274,500円
- 内訳: 被保険者負担 137,250円(9.15%)、事業主負担 137,250円(9.15%)
合計社会保険料(会社負担分+個人負担分)
- 合計: 659,000円 + 274,500円 = 933,500円
もし上限がなければ、600万円全額に保険料がかかり、約178.8万円(600万円 × (11.50% + 18.3%))もの負担になります。上限の仕組みを正しく理解することが、いかに重要かがわかります。
具体例2:年間700万円の賞与を複数回で支払った場合
健康保険の「年度累計」上限と厚生年金の「1回あたり」上限の挙動を、複数回支給の例で見てみましょう。
【前提】
- 社長1人だけの会社(40歳以上65歳未満と仮定)
- 7月に300万円、12月に400万円の賞与を支給(年間合計700万円)
- この年度、他に賞与の支給はない
- 保険料率:上記「具体例1」と同じ(東京都、協会けんぽ、令和7年度)
7月支給分(300万円)の計算
健康保険料
- 標準賞与額: 300万円
- 計算対象額: 300万円(年度累計上限573万円以内)
- 保険料(労使合計): 300万円 × 11.50% = 345,000円
厚生年金保険料
- 標準賞与額: 300万円
- 計算対象額: 150万円(1回あたりの上限適用)
- 保険料(労使合計): 150万円 × 18.3% = 274,500円
12月支給分(400万円)の計算
健康保険料
- 標準賞与額: 400万円
- 年度累計: 7月支給分300万円 + 12月支給分400万円 = 700万円
- 計算対象額: 年度累計上限573万円 - 7月支給分の計算対象額300万円 = 273万円 (12月支給分のうち、273万円が健康保険料の計算対象となる)
- 保険料(労使合計): 273万円 × 11.50% = 313,950円
厚生年金保険料
- 標準賞与額: 400万円
- 計算対象額: 150万円(1回あたりの上限適用)
- 保険料(労使合計): 150万円 × 18.3% = 274,500円
年間合計社会保険料(労使合計)
- 健康保険料合計: 345,000円(7月) + 313,950円(12月) = 658,950円
- 厚生年金保険料合計: 274,500円(7月) + 274,500円(12月) = 549,000円
- 年間合計: 658,950円 + 549,000円 = 1,207,950円
このように、健康保険は年度累計で上限が適用され、厚生年金は支給の都度上限が適用されるため、支給回数や金額によって保険料の総額が変わってきます。
FAQ:よくある勘違い
Q. 厚生年金にも年間上限があると聞きましたが?
A. いいえ、厚生年金に年度の累計上限はありません。 これは非常によくある勘違いです。 「1回150万円」という上限と、健康保険の「年度累計573万円」という上限が混同されがちです。厚生年金はあくまで支給の都度、150万円が上限と覚えておきましょう。
Q. 雇用保険は賞与にかかる?
A. 役員の場合、原則として雇用保険の適用対象外となるため、賞与に雇用保険料はかかりません。 ただし、労働者としての性格が強い役員(兼務役員など)で、雇用保険の被保険者となっている場合は、賞与にも雇用保険料がかかります。
Q. 65歳以上の介護保険料は?
A. 65歳以上になると、健康保険料に上乗せされる介護保険料(第2号被保険者分)はなくなります。 代わりに、お住まいの市区町村から直接、介護保険料(第1号被保険者分)が徴収されることになります。
Q. 賞与は随時改定(月額変更届)の対象?
A. いいえ、賞与の支給によって標準報酬月額が大きく変動しても、随時改定(月額変更届)の対象にはなりません。 随時改定は、固定的賃金(基本給など)の変動によって標準報酬月額が大きく変わった場合に適用されます。
役員賞与を出す前の重要注意点
社会保険料の負担を抑えられても、税金のルールを知らないと役員賞与は逆に損をします。
1. 経費にするには「事前確定届出給与」の届出が必須
役員賞与は、原則として会社の経費(損金)にできません。経費にするには、「いつ、誰に、いくら支払うか」を事前に税務署に届け出る「事前確定届出給与に関する届出書」の提出が必須です。
提出期限は** 「株主総会等の決議日から1か月を経過する日」または「その会計期間開始の日から4か月を経過する日」のいずれか早い日 **までと定められており、計画的な手続きが求められます。 この届出を期限内に提出しなかったり、届出た金額や時期と異なる支給をした場合、その役員賞与は全額が会社の損金として認められず、法人税の負担が増大する重大なリスクがあります。
2. 賞与支払届の提出も忘れずに
賞与を支給した場合は、支給日から5日以内に年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 賞与支払届」を提出する必要があります。この届出に基づいて、賞与にかかる社会保険料が決定されます。e-Govや届書作成プログラムを利用して電子申請することも可能です。
3. 社会保険料の節約 vs 税金の増加(トレードオフ)
上限を超えた賞与は社会保険料がかからない一方、個人の所得は増えるため所得税・住民税の負担は増大します。
この「社会保険料の節約額」と「増える税金額」のトレードオフを理解し、会社と個人の手残りがトータルでどうなるかをシミュレーションすることが極めて重要です。
賞与にかかる源泉所得税の計算方法(概要)
賞与から源泉徴収される所得税は、以下の手順で計算されます。
- 賞与の金額から社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)を控除します。
- 前月の給与(社会保険料控除後)と扶養親族の数に応じて、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から税率を求めます。
- (賞与の金額 - 社会保険料)× 算出した税率 で源泉所得税額を計算します。
住民税については、原則として前年の所得に基づいて計算され、毎月の給与から特別徴収されます。賞与から直接徴収されることは稀ですが、自治体によっては賞与からの徴収欄が設けられている場合もあります。
まとめ:賞与の上限を正しく理解し、最適な役員報酬を
今回は、複雑な賞与の社会保険料の上限について解説しました。
- 健康保険と厚生年金では上限のルールが全く違う
- 健康保険の上限は「年度累計」で573万円
- 厚生年金の上限は「1回ごと」に150万円
- 介護保険料は40歳以上65歳未満が対象
- 役員賞与を経費にするには期限内の「事前確定届出給与」の届出が必須
- 賞与支給後は「賞与支払届」を5日以内に提出
- 社会保険料だけでなく税金も含めたトータルな資金計画が重要
最適な役員報酬を決めるには、こうした複雑な計算を総合的に行う必要があります。
ご自身の状況で最適な役員報酬の金額を知りたい方は、当サイトの無料シミュレーションツール「役員報酬決め方ナビ」をぜひご活用ください。会社の利益やご自身の年齢などを入力するだけで、会社と個人の手残りが最大になる役員報酬額を簡単に見つけられます。
【役員賞与支給前後のチェックリスト】
- 取締役会等での決議: 賞与の支給額、支給時期、対象者を決定し、議事録を作成します。
- 事前確定届出給与の届出: 決議日から1か月以内、または会計期間開始日から4か月以内のいずれか早い日までに、税務署へ届出書を提出します。
- 賞与の支給: 決定した金額と時期に従って賞与を支給します。
- 賞与支払届の提出: 支給日から5日以内に、年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 賞与支払届」を提出します。
- 賃金台帳・源泉徴収票への反映: 支給した賞与額と徴収した社会保険料、源泉所得税を正確に記録し、年末調整時の源泉徴収票に反映させます。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については顧問税理士にご相談ください。