2025年最新|家族役員の報酬配分で世帯手取りを最大化する方法
「妻や夫、子どもに事業を手伝ってもらっているので、役員として報酬を払いたい」 「でも、いくらにすればいいのか、税金で損しないか不安…」
小規模な会社を経営していると、家族が役員として事業を支えてくれることも多いですよね。そんなとき、家族役員への報酬をどう決めるかは、とても重要な問題です。
報酬の配分を工夫するだけで、会社と個人が支払う税金や社会保険料の合計が減り、**世帯全体で使えるお金(世帯手取り)**を大きく増やせる可能性があります。
この記事では、家族役員への報酬を決める際の基本的なルールから、2025年最新の税制・社会保険制度に基づいた世帯手取りを最大化するための具体的な考え方まで、一人社長や小規模法人オーナーの方にも分かりやすく解説します。
この記事で分かること
- 家族への役員報酬が経費として認められるための重要ルール
- なぜ報酬を配分すると「世帯手取り」が増えるのか(所得分散のメリット)
- 【2025年最新・具体例】社長一人で報酬をもらう場合と、夫婦で配分した場合の比較シミュレーション
- 家族役員へ報酬を払う際の社会保険・税制上の注意点
- 健康保険の被扶養者要件改正(2025年10月〜)について
家族役員への報酬は会社の経費になる?損金算入の重要ルール
まず大切なのは、家族役員へ支払った報酬が、会社の経費(損金)として認められるかどうかです。もし経費と認められなければ、法人税がかかった後のお金から報酬を支払うことになり、税負担が重くなってしまいます。
法人税法上、役員報酬が損金として認められるためには、主に以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
定期同額給与 毎月、定額を支払う給与です。特別な理由なく、月によって報酬額を変えることは原則できません。「今月は利益が出たから多めに」といった支払方はNGです。
事前確定届出給与 株主総会の決議等で役員報酬の額や支給時期を定め、事前に税務署に届け出た上で、その内容通りに支給する給与です。主に賞与(ボーナス)として利用されます。
利益連動給与 同族会社以外の法人が、利益に関する指標を基礎として支給する給与です。中小企業ではあまり利用されません。
また、上記の要件を満たしていても、「不相当に高額な部分」と判断された報酬は損金として認められません。これは、役員の職務内容や会社の規模、同業他社の役員報酬水準などを総合的に考慮して判断されます。
これらのルールは、家族以外の役員でも同じです。特に家族役員の場合は、仕事内容や金額の妥当性を客観的に説明できるよう、職務内容の記録などを意識しておくことが大切です。
なぜ報酬の配分が重要?「所得分散」のメリットとは
では、なぜ社長一人が多くの報酬をもらうより、家族役員と配分した方が有利になるのでしょうか。その理由は、所得税の仕組みにあります。
日本の所得税は「累進課税」といって、所得が高い人ほど高い税率が課される仕組みになっています。
例えば、社長一人が年収1,200万円の場合、高い税率が適用されます。しかし、これを社長600万円、配偶者600万円と分けることで、それぞれに低い税率が適用され、世帯全体で支払う所得税を抑えることができるのです。これを「所得分散」と呼びます。
さらに、住民税も所得に比例して課されるため(標準税率10%=都道府県民税4%+市町村民税6%)、所得分散によって世帯全体の税負担を軽減できます。
この所得分散こそが、家族役員への報酬設定で最も重要なポイントです。
【具体例・2025年度版】社長が年収1,200万円 vs 夫婦で600万円ずつ。手取りはどう変わる?
言葉だけでは分かりにくいので、簡単なモデルケースで比較してみましょう。
【前提条件】
- 会社の利益(役員報酬を支払う前):1,500万円
- 社長:45歳、配偶者:42歳(ともに東京都在住)
- 社会保険:協会けんぽ東京(健康保険料率9.98%、介護保険料率1.60%)、厚生年金保険料率18.3%(2025年度料率を仮定)
- 基礎控除:48万円、その他所得控除は考慮せず簡略化
- 所得税は課税所得の千円未満切り捨て、速算表で計算
パターン1:社長一人が年収1,200万円(月100万円)
この場合、社長個人にかかる所得税・住民税が高くなります。また、役員報酬が高額なため、社会保険料の標準報酬月額上限に達する可能性があります。
- 概算の世帯手取り:約850万円
- 会社+個人の総負担(税金・社会保険料):約650万円
パターン2:社長が年収600万円、配偶者が年収600万円
夫婦で所得を分散した場合です。それぞれに低い税率が適用されます。
- 概算の世帯手取り:約920万円
- 会社+個人の総負担(税金・社会保険料):約580万円
いかがでしょうか。会社の利益は同じでも、報酬の配分を変えるだけで、世帯の手取りが年間で約70万円も増える計算になります。結構大きな金額ですよね。
もちろん、これはあくまで簡単なシミュレーションです。実際には、扶養控除や配偶者特別控除、賞与の有無、介護保険の適用(40歳以上)などを考慮する必要があるため、計算はもっと複雑になります。
このような複雑な計算は、私たちの「役員報酬決め方ナビ」を使えば、無料で簡単にシミュレーションできます。ご自身の状況に合わせて、どの配分が最適か試してみてはいかがでしょうか。
家族役員へ報酬を払う際の重要な注意点
所得分散のメリットは大きいですが、いくつか重要な注意点もあります。知らずに進めると、かえって損をしてしまう可能性もあるため、しっかり押さえておきましょう。
1. 社会保険への加入義務
重要:法人の役員は、報酬額にかかわらず社会保険への加入義務があります。
多くの方が誤解されやすいポイントですが、「一定額以上の報酬を支払うと社会保険に加入する」のではありません。株式会社などの法人は、原則として「強制適用事業所」となり、役員に報酬を支払う場合、常用的使用関係がある限り、金額にかかわらず健康保険・厚生年金の被保険者となります。
社会保険料は会社と個人で折半して負担するため、会社の支出が増えるだけでなく、家族個人の手取りも減ることになります。所得税のメリットと、社会保険料の負担増を天秤にかけて、慎重に金額を決める必要があります。
ただし、非常勤役員で出勤日数が少ない場合や、70歳以上の場合など、加入要件が変わるケースもありますので、詳細は年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。
2. 配偶者控除・配偶者特別控除について
配偶者へ報酬を支払うと、「配偶者控除」や「配偶者特別控除」の適用に影響が出ます。
- 配偶者控除:配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)の場合、納税者本人に最大38万円(所得税)の控除
- 配偶者特別控除:配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下(給与収入のみなら約103万円超201.6万円以下)の場合、段階的に控除が適用
配偶者に役員報酬を支払う場合、多くのケースで配偶者控除は使えなくなります。しかし、所得分散による節税効果の方が大きいケースがほとんどですので、総合的に判断することが大切です。
なお、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除も配偶者特別控除も適用されませんのでご注意ください。
3. 健康保険の被扶養者要件(2025年10月改正)
配偶者や子どもを被扶養者として社会保険に加入させている場合、被扶養者の年収要件にも注意が必要です。
**2025年10月1日から、19歳から23歳までの被扶養者(配偶者を除く)について、年収基準が130万円未満から150万円未満に緩和されました。**これは、学生の扶養認定基準を引き上げることで、学業とアルバイトの両立を支援するための改正です。
参考: 協会けんぽ『被扶養者の認定基準』
ただし、配偶者については従来通り、原則として年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)が被扶養者の要件となります。
4. 職務実態の証明
先ほども触れましたが、「本当に役員として働いているか」は税務調査でもチェックされやすいポイントです。万が一、勤務実態がないと判断されると、支払った報酬が経費として認められず、追徴課税されるリスクがあります。
「週に数回、経理や総務の仕事を手伝っている」「重要な会議に参加し、経営判断に関わっている」など、仕事内容を具体的に説明できるようにしておきましょう。簡単な業務日報などを記録しておくのも有効です。
まとめ:税理士に相談する前に準備しておくこと
家族役員への報酬は、会社の税金だけでなく、家計にも直結する重要な経営判断です。最適な配分を見つけることで、世帯全体の手取りを大きく増やすことができます。
いきなり税理士に「どうすればいいですか?」と聞くのも一つの手ですが、ご自身でいくつかシミュレーションをして、相談のたたき台を用意しておくと、よりスムーズで有意義な話し合いができます。
【税理士への相談前準備チェックリスト】
- 家族役員に任せたい仕事内容(職務内容)を明確にする
- その仕事内容に見合う報酬額の相場を調べる
- 「役員報酬決め方ナビ」で複数の報酬配分パターンを試算する
- 定期同額給与の支給スケジュールを決める
- 就業実態の記録方法を検討する(業務日報など)
- 健康保険・厚生年金の資格取得手続きについて確認する
- 配偶者特別控除の適用可否を想定する
- 被扶養者要件(19-23歳は150万円未満)を確認する
最適な役員報酬の額は、会社の状況やご家族の構成によって全く異なります。ぜひ、シミュレーションツールを活用して、ご自身の会社に合った最適なバランスを見つけてみてください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については顧問税理士にご相談ください。