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ケーススタディ:資本政策から考える役員報酬の最適な決め方【2025年最新税制対応】

ケーススタディ:資本政策から考える役員報酬の最適な決め方【2025年最新税制対応】

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ケーススタディ:社長の持株比率が高いと役員報酬は自由?資本政策の基本【2025年最新税制対応】

「会社の株はほとんど自分が持っているのだから、役員報酬は自由に決めても良いのだろうか?」 「家族も役員に入れているけれど、持株比率と給与のバランスはどう考えればいいんだろう?」

会社のオーナー社長であれば、一度はこんな風に考えたことがあるかもしれませんね。特に、ご家族が役員として経営に参加している場合、報酬の決め方は悩ましい問題です。

本記事は法人(株式会社等)を設立している経営者向けです。個人事業主の方は青色事業専従者給与の制度が適用されますので、別途情報をご確認ください。

この記事では、多くの中小企業オーナーが気になる「持株比率と役員報酬の関係」について、資本政策という視点から、2025年最新税制と法令根拠に基づき、具体的なケーススタディをもとに分かりやすく解説していきます。

結論:役員報酬は「株主総会決議」と「職務内容の妥当性」で決まる

まず結論からお伝えすると、役員報酬は社長が一人で自由に決められるものではありません。

  1. 株主総会での決議が必須: 会社法第361条により、役員報酬は定款に定めるか、株主総会の決議によって決定されます。たとえ社長が100%の株式を持つ一人社長の会社であっても、この手続きは必要です。
  2. 職務内容への妥当性: 法人税法上、「不相当に高額な役員給与」は会社の経費(損金)として認められません。報酬額は、その役員がどれだけ会社の利益に貢献しているか、どんな責任を負っているかに基づいて決めるのが基本です。

持株比率は株主総会での議決権の大きさを決めますが、報酬額そのものは、あくまで各役員の職務内容や会社への貢献度によって決めるべきです。この2つのバランスを取ることが、適切な役員報酬設計の鍵となります。

2025年最新税制:役員報酬設計に影響する税金の基本

役員報酬を決定する上で、個人の所得税・住民税、そして法人の法人税への影響を理解することは不可欠です。2025年最新の税制改正も踏まえ、主要な税金の基本を確認しましょう。

基礎控除の拡充(令和7年分から)

令和7年分(2025年)から、所得税の基礎控除が合計所得金額に応じて最大95万円に拡充されます。これは個人の手取り額に影響を与える重要な変更点です。

合計所得金額基礎控除額(令和7年分)
2,400万円以下95万円
2,400万円超2,450万円以下88万円
2,450万円超2,500万円以下68万円
2,500万円超58万円

※令和9年分以後、一部58万円へ移行する場合があります。 参照:国税庁「令和7年分所得税の定額減税について」

所得税率(7段階)

個人の所得税は、課税所得に応じて5%から45%までの7段階の累進課税が適用されます。

課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超330万円以下10%97,500円
330万円超695万円以下20%427,500円
695万円超900万円以下23%636,000円
900万円超1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

参照:国税庁「所得税の税率」

住民税率(一律10%)

住民税の所得割は、原則として市町村民税6%と道府県民税4%を合わせた**一律10%**が適用されます。これに加えて、均等割(自治体によって異なる場合があります)が課税されます。

参照:freee会計「住民税の計算方法とは?所得割・均等割の仕組みや計算例を解説」

役員報酬決定の法的根拠と手続き(会社法・法人税法)

役員報酬の決定は、会社の法律と税法の両面から厳格なルールが定められています。

会社法に基づく決定手続き

会社法第361条により、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益(以下「報酬等」といいます)については、定款にその額を定めるか、株主総会の決議によって定める必要があります。

これは、役員が会社の経営を担う立場であるため、報酬額を自由に決められると株主の利益を損なう可能性があるためです。

参照:e-Gov法令検索「会社法 第三百六十一条」

株主総会議事録の作成手順

株主総会で役員報酬を決定した場合、その内容を議事録として残すことが義務付けられています。議事録には以下の項目を記載します。

  • 開催日時・場所
  • 株主の出席状況(議決権数)
  • 議長の氏名
  • 議事の経過の要領及びその結果
  • 役員報酬の具体的な金額、支給方法、対象期間
  • 議事録作成者の氏名

この議事録は税務調査の際にも確認される重要な書類となりますので、適切に作成し保管しましょう。

法人税法上の「損金算入」と「不相当に高額な役員給与」

法人税法では、役員給与が会社の経費(損金)として認められるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。主な役員給与の類型は以下の通りです。

  • 定期同額給与: 毎月同額で支給される給与。原則として事業年度開始から3ヶ月以内に改定し、その後は事業年度終了まで変更しない。
  • 事前確定届出給与: 株主総会などで支給時期と金額を事前に定め、税務署に届け出た上で支給される賞与など。
  • 業績連動給与: 会社の業績に連動して支給される給与。非同族会社に限定されるなど、要件が厳しい。

これらの類型に該当しない給与や、「不相当に高額な役員給与」と判断された部分は、会社の損金として認められず、法人税の課税対象となります。

参照:国税庁「No.5211 役員に対する給与」

そもそも「資本政策」とは?(中小企業向けに解説)

「資本政策」と聞くと、スタートアップ企業の資金調達やIPO(株式上場)といった、少し遠い世界の話のように聞こえるかもしれません。

しかし、中小企業や家族経営の会社にとっても、資本政策は無関係ではありません。中小企業における資本政策とは、「誰が、どれくらいの割合で会社の株式を持つか」を決め、会社の支配権(コントロール)をどう安定させるかという、経営の根幹に関わる重要なテーマなのです。

社長が100%の株式を持っていれば、会社の重要な意思決定はすべて社長一人で行えます。しかし、家族や他の役員が株式を持っている場合、その比率によって意思決定のプロセスや、役員報酬の決め方にも影響が出てくるのです。

ケーススタディ:社長が株式の80%を保有する会社の役員報酬

それでは、具体的なケースで考えてみましょう。

  • 会社: Web制作会社(売上5,000万円)
  • 株主構成:
    • 社長(夫): 80%
    • 役員(妻): 10%
    • 役員(社長の弟): 10%
  • 役員の業務内容:
    • 社長: 経営全般、主要クライアントの営業担当
    • : 経理・総務全般を担当
    • : 開発チームのリーダー、技術責任者

社長は80%の株式を持っているので、会社の経営権は安定しています。この状況で、それぞれの役員報酬はどのように決めるべきでしょうか?

論点:持株比率と「仕事への貢献度」のバランス

役員報酬は、その役員がどれだけ会社の利益に貢献しているか、どんな責任を負っているかに基づいて決めるのが基本です。税務署は、「不相当に高額な役員給与」を認めていません。つまり、仕事内容に見合わない高すぎる給与は、会社の経費(損金)として認められない可能性があるのです。

この「仕事に見合っているか」を判断する際に、持株比率と業務内容が大きく乖離していると、問題になることがあります。

注意が必要な例

例えば、役員である妻が10%の株式を持っているからといって、経理・総務の仕事量に見合わない高額な報酬(例えば、社長と同じくらいの金額)を支払っているとどうでしょうか。税務署からは「それは給与ではなく、実質的な利益の分配(配当)ではないか」と見なされ、経費として認められないリスクが高まります。

適切な例

一方で、役員である弟は、持株比率は10%ですが、会社の技術責任者として事業の根幹を支えています。この場合、彼の貢献度に見合った高い報酬を支払うことは、妥当性が高いと判断されやすいでしょう。

「不相当に高額な役員給与」と判断されないために

税務署が「不相当に高額な役員給与」と判断する際の主な基準は以下の通りです。

  1. 同業他社の役員報酬水準との比較: 同規模・同業種の他社の役員報酬と比較して、著しく高額ではないか。
  2. 役員の職務内容・責任との比較: その役員の職務内容や会社への貢献度、責任の重さに見合っているか。
  3. 会社の収益状況との比較: 会社の利益水準や財務状況に対して、過度に高額ではないか。
  4. 株主総会での決議内容との乖離: 株主総会で決議された金額と実際に支給された金額に乖離がないか。

これらの基準を総合的に考慮し、客観的に妥当と判断される報酬額を設定することが重要です。

まとめ:最適な役員報酬設計のためのチェックリスト

持株比率と役員報酬のバランスは、税務上のリスクも絡むデリケートな問題です。最終的な判断は、必ず顧問税理士に相談することをお勧めします。

税理士に相談する前に、ご自身の会社で以下の点を整理しておくと、話し合いがスムーズに進むでしょう。

  • 各役員の具体的な職務内容は何か?
  • その仕事内容は、同業他社の同じ役職の人と比べて妥当か?
  • 会社の定款や株主総会の議事録は整備されているか?
  • 役員報酬の改定は、事業年度開始から3ヶ月以内に行われているか?

役員報酬の決め方は、会社の成長と安定経営に直結する重要なテーマです。ぜひこの機会に、ご自身の会社の状況を見直してみてはいかがでしょうか。

これらの要素を考慮しながら、会社と個人の手残りが最大になるようなバランスを見つけるのは、なかなか複雑な計算が必要です。そんな時は、シミュレーションツールを使ってみるのも一つの手です。

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断については顧問税理士にご相談ください。